多崎つくる

10月5日(土)

10月に入り、授業開始。授業がなくても慌ただしいけど、よりいっそう慌ただしい毎日が再び。仕事がうまく進まず、焦燥感が募る。結局、仕事がうまく進まないと、満たされた気持ちにはならないのだなぁ。良くも悪くも。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読了。村上氏の中編小説ということで、「アフター・ダーク」みたいな、とらえどころのない話を予想していて、なんとなく気が進まず、本棚に置いたままにしていたのだけど、ずいぶん予想と違った。私としては、好きなスタイルの話だと思う。

今回も性的な話が話のキーポイントとなっている。性的な夢。ホモセクシャル。レイプ。ノーベル賞受賞の壁となっているのが、こうした性的な描写だとも聞く。確かに、最近の著作には、かなり生々しく、決して美しいとは言えない性的描写が多い。ただ、男性だけでなく、人間の人生の中で、性的な要素が占める割合がかなり高いのは事実だし、それが人間の暗部とつながっていることも多いだろう。だから、人間の暗部を描こうとすると、やや病的とも思われる性的な描写で表現することになるのかな、とは思う。とはいえ、やはりやや過剰な感じはするのだけど。

現在の経済に関する捉え方も、違和感としては強い。レクサスで働くアオは、なんだか無駄に働いているみたいだし、社員教育の会社を経営するアカは、宗教家みたい。そういった要素があることは否定しないけど、この偏った捉え方は、なんとかならないだろうか。「産業の洗練化」とか言われると、やや萎える。村上氏と社会との乖離が進んでいるような気が、今回もした。

とはいえ、久しぶりにページを繰るのが速かった作品ではある。村上氏の作品の場合、短編・中編小説の方が、今の私には合っているのかな、と思う。