ゴールデンスランバー

9月14日(水)

イギリスから戻って、研究会に2つ参加。時間的にやや余裕があるのだが、落ち着くような、逆にいろいろ考えすぎてしまうような、微妙な日々。出張先に携帯を忘れ、久しぶりに手帳を見ながら公衆電話を使ったら、今度はそこに手帳を置き忘れてしまうという、さんざんなミスもあり。無事手帳は発見されたけど、なんやかやとミスが多い。

最近のよかったこと。イギリス滞在が無事に終わる。頼りになる人たちと知り合いになることができた。帰国後の研究会で無事に発表を終えた。広島「八昌」のお好み焼きは、別格にうまかった。長女が県の俳句コンテストで優秀賞を受賞。それから、・・・みんな元気^^

「ゴールデンスランバー」を読了。数年前の本屋大賞受賞作。伊坂氏の本は、おそらく3冊目かな。首相殺人の容疑者にされた主人公の逃走をめぐるストーリーがメイン。著者も述べているように、わりと典型的な設定の中で話が進み、後になるほど、話に勢いが出てくる。とても面白く読むことができた。

ただ、「日の名残」を読んだ後ということもあるけど、そこで語られる人々の感情やこの世の中のとらえ方に、どっぷりつかることができない。ややテーマが軽いように感じてしまう。おもしろくはあるんだけど、本で語る必然性がもっと感じられるといいな・・・というのが正直なところ。個人的には「ラッシュライフ」の方が好きかも。



日の名残

8月31日(水)

引き続き、イギリスに滞在中。一昨日から、ニューポート・パグネル、という街にいる。来年度滞在予定のクランフィールド大学の近郊で、かつてこの大学にいた私の共同研究者が住んでいた町である。人々は穏やかで、静か。よい環境で、とてもリラックスできる。ロンドンとは異質の世界。昨日はシティセンターの裏手にある草原を1時間ぐらい歩いた。まさにイギリス、という感じの場所。



もちろん、大学にも視察を兼ねたミーティングで訪問。大学は新学期。中国人が多く目についた印象。




さて、渡航前、イギリスにどの本を持って行こうか、と考えた時に、ふと頭に浮かんだのが、カズオ・イシグロの名前だった。日本生まれだが、すぐに渡英し、英語で小説を書く。ブッカー賞受賞者で、村上春樹さんが新作を心待ちにする作家。イギリスに向けた飛行機の中で読む本として最適である。

持ってきたのは「日の名残」。第二次大戦後、英国で執事として働くスティーブンスの1人語りで話しは進む。執事としての仕事に情熱を傾け、かたくなに執事の「品格」を守ろうとするスティーブンスの仕事とそれに絡む人々との関係が淡々と語られる。前半の中心は、同じく執事であった父親との話。そして、女中頭であるミス・ケントンとのほのかな恋愛の話が最後の盛り上がりをつくる。執事の品格を守ることが彼の人生であるが故に、尊敬する父や、思いを寄せてくれる女性に人間らしく対応できないスティーブンス。悲しみがじわじわと迫ってくる、不思議な感慨のする小説である。

ただ、主人公のまじめさ、堅さは、どこか私に重なるようなところがある。おそらく小心で、大胆に自分を楽しませることができないんだけど、堅い仕事を理由に、それを正当化するような・・・そんな感じ。でも、それも悪くないんじゃないかな・・と思う自分がいたりして、難しいところである。

イギリス滞在もあと1日。台風が迫る日本に、ちゃんと帰れるだろうか・・・心配。


ロンドン街歩き

8月28日(日)

イギリスに来ている。来年予定している在外研究の下見のために、滞在予定の大学を訪れたり、家を見つけたい街の様子を見たりする予定で5日間の滞在。イギリスは初めての訪問。

昨日と一昨日は、ロンドンに滞在した。主な目的は、小売店舗の視察。できる限りの小売施設を回ろうと、地下鉄を乗り回しながら、ぐるぐると街を歩いた。2日で3万歩も歩いたのは、この携帯付属の万歩計を使い始めてからの最高値。足がすこぶる痛い。

ロンドンの街を歩いていると、いろいろなことを考えさせられる。ソウルや上海も興味深いけど、ロンドンも同じように興味深い。今日はホテル近くのケンジントン・パークを歩いて、大都会の真ん中にこれだけ大きな公園があることに、やはり驚嘆。皇居も大きいけど、この公園は一般の人が自由に入れるところが違う。日曜日だったせいか、犬の散歩をする人、ジョギングする人が多く見られた。散歩しててても、どうも風景から浮いている気がして、やや落ち着かないけど、気持ちよい散策ができる。


ケンジントン・パーク

小売施設の方もなかなか。老舗百貨店・ハロッズも、いろいろ探せば語り尽くされているのだろうけど、すごく印象に残った。この大都会の真ん中で、未だに家具や家電を売っている百貨店があるとは・・・。おそらく、郊外の巨大家電量販とか、家具のディスカウンターなどが未発達なんだろうけど、それでもあの光景は印象的だった。写真は、もう1つの老舗百貨店、リバティ。こちらは、百貨店というより、品のいいファッションビルみたい。たぶんフロアは、109の半分ぐらいかな。


リバティ

老舗の百貨店の戦略としては、「観光客用の購買の場所」として確立しているところが共通しているよう。これは日本の百貨店は学ぶところが多いのではないかと思う。大阪・梅田の百貨店なんか、あれだけ集積させて同質的な競争をしているのだから、1店でもグローバルに集まる観光客に向けたフロアを作ればいいのに、と思う。日本伝統の織物、小物、盆栽なんかを集めたフロアを作れば、海外のお客さんは大喜びだと思う。

それに、おもちゃの店、ハムレイズ(Hamleys)の店内演出もよかった。多数の店員が、フロアでおもちゃの実演をして、子供を楽しませると同時に、おもちゃの魅力を伝えるマーケティングもおこなっている。ディスニーランドみたいな楽しい雰囲気があるし。あれは日本でも受けるだろうし、日本人はあの手のサービス、得意だと思うんだけど。

その他にも、セビル・ロウ(オーダーメイドのスーツの聖地)やイギリスおみやげの専門店(あんなのが東京や高松にあってもいいね)なんかも回って、いろいろ勉強になった。でも、一言書いておくとすると、ロンドン街歩きは、仕事的には興味深いんだけど、個人的にはあまり「おもしろい」とは感じない、ということ。この歳になって1人で異国の街を歩いていても、心の底からfunnyとしての「おもしろさ」は感じないんですね。家族や友達と語り合うことのできない異国の街は、そういう意味で、どうというところのない場所である。寂しいような、幸せなような、複雑な心持ちのする異国の街歩きだった。

英字新聞1分間リーディング

7月30日(日)

Facebookを初めて,2ヶ月ぐらい。あまり自分の情報を出すこともないし,友達もあまり増えないんだけど,皆さんのつぶやきや写真を見て,ぼちぼち楽しんでいる。仕組みや特徴は,おおよそ分かった気がする。

Facebookを見ていてしみじみ思うのは,人それぞれに日常があり,交友関係があり,喜怒哀楽があるのだな・・・ということ。天気のよい日に飛行機に乗ると,地上が見渡せて,「この広い世界の中に,ものすごく多くの人々の生活があるのだな」と漠然と思うことがあるけど,Facebookでは,その一部を具体的に見せられている感じ。世界では1人1人の生活の中で,ほんっっっっとにいろんなことが起こっているのだ。当たり前だけど。ただ,それらを見ている私自身は,気分的に軽く落ち込むことが多いような気がする。私と違ってアクティブな人たちの生活が垣間見えるからだろうな。

ようやく授業も終わり,生活は落ち着いてきている。散漫な読書が続いていたが,少しペースも変わってくるかもしれない。

ホーマン由佳「英字新聞1分間リーディング vol.1,vol.2」
THE NIKKEI WEEKLYの中から選ばれた記事の,記事タイトルと冒頭1パラグラフだけが抜粋されており,主要な単語の意味と本文訳が載っている。非常に簡単な構成であるが,英語の語彙を増やすのに最適だ。最初はわからない単語が多いが,徐々に既知の単語が増加してきて,確実に語彙が増えていくのがわかる。今はvol.2の記事を1日2つぺースで読み,すでに読了したvol.1の記事をトイレで読み返して,復習している。何回か同じ単語を目にしていくうちに自然と覚えてしまう,というのが,英単語記憶の王道なのだと実感する。

大竹文雄「競争と公平感」
大阪大学の有名な経済学者が,経済学の考え方を一般向けに解説した読み物。行動経済学が専門だと思うが,その項が一番充実していると思う。はっきり言って経済学がいまいち理解できていない私のような人間にとってはよい本だが,議論はもう少し掘り下げてもいいかな,とも思う。

新谷弘実「病気にならない生き方 -ミラクル・エンザイムが寿命を決める-」
牛乳は健康によくない,と言って,業界を騒がせた本。著者は実績のあるお医者さんのようだが,本を読んだ感じは,なんだか怪しさがぬぐえない。ミラクル・エンザイムって,おそらく学術用語じゃないだろうし,ネーミングとしてどうか・・・。経歴から見ると,腸をよく見ているってことだから,腸に関することは信用してもいいのか?レビューを見ても,そんな指摘が多い様子。とりあえず,長年食べていたヨーグルトは,食べていても胃腸の調子が改善されないので,著者の言うようにやめてみた。今のところ,特に腸の状態に変化はなし。うむむ。

イギリス近代史講義

7月11日(月)

昨日は,神戸に日帰り出張で,今日は疲れぎみ。ぼちぼち明日の授業の準備をしないと・・・。授業もあと2週間とちょっと。なんとか乗り切らなくては。

イギリスに行くまでに,イギリスと日本に関わる本をいろいろ読んでおきたい。川北稔「イギリス近代史講義」は,うってつけの本だ。イギリスの近代史について,いろいろな観点のことが「ざっくり」書かれている。歴史学者っていうと,資料の取り扱いから解釈まで,非常に厳密におこなう印象をもっていたけど,これは良い意味でざっくり。著書の最後にもこんな記述がある。「歴史を単語の暗記などではなく,大づかみにとらえる見方の一例となれば幸いです」(p.264)。このスタンスはいいですね。

キーワードとしては,「都市化」,「世界システム論」,「成長パラノイア」,などいろいろあるだけれど,やはり「イギリス衰退論争」をとりあげた最終章が一番興味深い。現在の有力な学説では,「イギリス経済の本質は,産業資本主義(つまり「ものづくり」)ではなく,ジェントルマン資本主義,つまり,資産を他人に貸し付けることで利益を得る地主・金融資本的なものにある」(p.243)ために,現在でもシティが元気なイギリスは衰退などしていない,ということなのだそう。う~ん・・・そうなのか・・。

日本はあきらかに「ものづくりの国」だから,この論理でいけば,ものづくりが衰退すれば,衰退ということになる。そうなると,他国と競争のできる「ものづくりのコア」をどこにもっていけばいいのか・・・。地方の産地にそれを求めるのは,やはり無理のなのかなぁ・・・。

ドミノ

6月29日(金)

今日は朝からすごくいい天気で,暑い。まだ6月だけど梅雨が明けそう。妻は発言の8割が「暑い」に関係することで,そうとう堪えている様子。暑さに慣れるまでは,ぼちぼちやらないとなぁ。ゆっくりでも前に進み続けることが肝心だ。

恩田陸「ドミノ」をちょっと前に読了。米原万里さんのこの本を読んで購入したもの。東京駅の周辺で別々に行動している27人と1匹(動物。ネタバレするので種類は書かないが)が,やがて1つの事件にそれぞれに巻き込まれていく。別の人たちの,一見関連しない話を次々に読んでいく形になるが,「いずれ繋がるんだよな・・・」と思いながら,巧妙に書きわけられているそれぞれのストーリーを読んでいくのは,楽しい。

ただ,同種の小説としては「ラッシュライフ」の方が,完成度が高いかな,と思った。恩田さんの作品の方が先で,それ以前には同じような形の小説はなかったようだから,仕方ないところもあると思うんだけど。あと若い人の会話部分のちょっとわざとらしい感じが,やや気になる(「夜のピクニック」の時も感じたんだけど・・・)。男性と女性の感じ方の違いが影響しているのかもしれない。

前期終了まであと1ヶ月。乗り切ろう。

夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです

6月24日(金)

ぼちぼちと読み進めてきた,村上春樹インタビュー集「夢をみるために毎朝僕は目覚めるのです」を先日読了した。ずいぶん長い時間を掛けて読んできたので,ややぼやっとしているところもあるのだけれど,やはりポイントは村上氏の物語の作り方にあると思う。

表題にあるように,村上氏の物語の作り方とは,夢を見るように自分自身の奥深いところに「降りていく」ことによって,物語を「紡ぎ出す」という感じかと思う。インタビューの中によく出てくるのは,自分でも予想だにしない登場人物が生まれたり,ストーリーが展開されたり,といったプロセスがよくあるということ。だからこそ,作者がどのような意図をもってその人物やストーリーを展開したか,を作者に問うことは無意味であり,テキストは作者を含めたすべての人に平等に開かれている,というのである。

私が論文を書くときは,当たり前だけど,自分の論理的な能力をフル回転させ,メッセージが明確に伝わるように慎重に言葉を選び,構成を練るし,それがすべてである。小説だって,ある程度そうやってできるもんだろう,と思っていたのだ。漠然と。もちろん,登場人物の性格や設定を決めれば,そこからストーリーが半ば自然に展開されることがあったとしても,登場人物の設定自体が何かの意図を明示的にもたずに,半ば無意識のような状態の中から立ち上がる,というのは,想像を超えることだ。さらに,そのようにして作られた氏の作品が,私だけでなく,世界中の人たちを惹きつけるのだから,二重に驚かされる。

ただ,論文を書くときにも,直感的に,あるいは,ずっと考え続けているうちに,自然と中心的な概念が整理される,ということもあるから,それを突き詰めていくと,氏のような文章の作り方になるのかな・・・とも思える。未知の自分をテキストの作成にどのように活かすのか,という問題なのだろうか。

手法はさておき,「ノルウェイの森」や「国境の南,太陽の西」のようなリアリズムの文体を用いた新作を期待している人が多いのではないか,と思うのだけど。将来的にもう1作ぐらい,あるかな・・・?