ロング・グッドバイ 再読

9月16日(日)

金曜日,家に帰ると次女が熱を出して寝ていた。というわけで,週末は家でだらだらと過ごす。幸い,次女の症状はたいしたことがなくて,すぐに熱も下がり,今は1階でレゴで遊んでいる。明日は小学校に行けるかな。

9月に入ってクランフィールド大学の修士課程が終わりを迎え,知り合いになった学生たちが一斉に大学を去って行った。多くは日本人だけど,外国人もちらほら。私の乏しい人間関係でも,少しは友達ができたのだけど,彼らが去って行って,少し寂しい。日も短くなってきて,なんだか弱気な私がそろりそろりと幅をきかせてきそうな感じ。そんな中,最近は,J先生にお茶や食事に誘ってもらい,とてもありがたい。私の適当な英語でも理解してくれるし,会話のトレーニングにもなる。何かおかえしができるといいのだけれど。

最近の出来事。日本人の学生たちと家でさよならパーティー。ここぞ,とばかりの快晴で,庭で楽しく食事をすることができた。でも,久しぶりで調子にのって飲み過ぎ,1つ2つ失敗をしでかす。妻に一生言われるレベルの失敗をしでかすとは・・・不覚。家の車をMOTという法定点検に出す。たった40分で終了,パス,と言われて,ぐっと親指を立てられる。よかった・・・とは全く思うことのできない,至極簡単な検査。なんとなく不安なので,日本人運営の修理工場に詳しい検査に出すことにした。一路,ロンドンまで妻とドライブ。2時間半ほどで,無事点検完了。大きな問題はなし。でも,修理を依頼していた左のミラーが割れたまま。新しいものに付け替える際に,また割ったのだとか。日本人経営でも,なんだかイギリス的な話でちょっとおもしろい。昨日は,またまたロンドンに行き,病院で定期検診。特に異常なしだけど,耳の中がかゆいので,かゆみ止めの薬をもらってきた。途中ロンドン三越の書店で,カズオ・イシグロ「遠い山なみの光」をさんざん迷ったあげく購入。この書店,よくよく調べてみると,価格は日本の倍以上。ちなみに,この本は定価700円で,13ポンド。う~ん,高い。心して読まないと。

チャンドラー「ロング・グッドバイ」,を再読。最近,同じ本を2度読むのは珍しいのだけど,これは以前から再読を決意していたので,日本から文庫を持参してきた。以前に読んだときの感想がこれ(2009年7月)。そのときよりは,すっと物語の中に入っていけた気がする。

今回印象に残ったのは,お金持ちのリンダがマーロウに結婚を迫るシーン。マーロウ42歳,リンダ34歳。大人の心理の描き方が秀逸で,2人の気持ちが行間ににじむ感じ。それと,もう一つの読みどころは,違いなく村上氏の解説。チャンドラーという作家がマーロウという主人公を活躍させる作品群の中で,何をしたのか。この解説は,チャンドラーという作家の革新性が,素人にでも分かる形で提示されている。これを読めば,私にも小説が書けるのではないか,と思わせるほどに・・・というのは,嘘だけど,作家にしか書けない,優れた解説である。

明日から9月も後半。そろそろ研究のペースを上げないと,な。在外も残り半年。しっかりやらなくては。


社会科学のリサーチ・デザイン つづき


9月10日(月)

キング他「社会科学のリサーチ・デザイン」の後半を読了。ようやく全体像がつかめた。

本書の因果的効果の推論についてキーポイントになるのは,因果的効果の推論が、本書の中に示される「因果的効果の定義」に基づいて厳密に捉えられており,この定義に基づかない推論は一切みとめない,という点にあると思う。

「因果的効果とは,説明変数がある値をとるときに得られる観察の体系的な要素と説明変数が別の値をとるときに得られる観察の体系的な要素との差である」(p.97)

一般的な実験計画法と同じように,この定義に従えば,鍵となる説明変数に差があり,それ以外の条件が全く同一の2つの事例(観察)の比較をおこなうことで,説明変数の従属変数に対する因果的効果が推論できる(そして,その比較を厳密にするために,様々な点が考慮されなければならない。例えば,バイアスを避け,有効性を高め,内生性の問題を回避することである)。これらの議論の背後にあるのは統計学の論理であり、私たちがサーベイ調査をおこなう際に配慮する点を,いかにケース・スタディでも配慮するのか,が説かれている,といってもよいと思う。つまり,観察の数(n数)は多い方がよいし,多重共線性に注意し,鍵となる説明変数以外で従属変数に影響を与える変数を統制しなければならない。特に、バイアスを避けるための事例(観察)の選択の仕方は厳密で、参考になる点が多いと思う(経営学では、この点はやや議論が弱い気がする)。

しかし,少なくとも私の知るケース・スタディでは,1つの事例からの(つまり,比較なしの)因果的効果の推論を認める方法論が多いように思う。少なくとも,Yinの方法論は単独の事例から推論される因果メカニズム(因果効果の連鎖)を推論する方法を提示しているし,田村(2006)にも紹介されている「過程追跡」の手法は,それを正面から議論している。このような単独事例の因果推論を認めるかどうかが,私たちの知る一般的な経営学のケース・スタディの考え方と決定的に異なる点だと思う。

個人的には,この本で示されるスタイルも,ケース・スタディの1つのあり方だし,強い説得力があるなと思う一方で,かなり極端な議論だな, とも思う。この本の示す方法によると,ケース・スタディは,定量的な方法が何らかの理由でなじまない(例えば、n数が少ない,あるいは,サーベイ調査になじまない)調査対象に適用される方法,ということになる。さらに,個々の事例から因果的あるいは,記述的推論以外の成果は期待できない,ということにもなる。個人的には,それではケース・スタディがもっている手法としての特徴がとらえきれていないのではないか,と思うのだが・・・。例えば,構成概念の探索,あるいは,仮説の構築・・・。

ただもう少し勉強を続けないと,この辺の結論は出てこないかな。続けて読むとすれば、この本だけど、どうやって手に入れるか・・・。仕方ないので、英語で読むか。いずれにしても、よい勉強になった。

社会科学のリサーチ・デザイン

9月6日(木)

昨日から子供たちの小学校が新学期となった。朝ご飯が終わると,子供たちが「何しようか~」とごそごそ動き出すくつろいだ感じもいいけれど,少しバタバタしながらも,規則的に物事が流れていく日常も,それはそれで気持ちのよいものである。私の生活も,少し研究よりにシフトできそうな感じがする。

ここ数日は,研究室でキング他「社会科学のリサーチ・デザイン」を読み続けている(K先生,遠くまで本をもってきてくれて,ありがとうございました)。政治学の方法論の教科書だけど,目を見開かされるような指摘が多く,この種の本としては珍しくページをめくるスピードが速い。こんな重要な翻訳書をいままで読んでいなかったのは,私の怠慢で恥ずべきところだけれども,これを反映したような日本語の論文も,目にしないような気がする。皆,どのようにとりいれればいいのか,逡巡しているのか。あるいは,すでに考えを取り入れた論文も存在するのか・・・?

この半年で学んだケース・スタディに関する知見を,個人的なメモとしてワーキングペーパーにまとめようと思っていたのだけど,この本の出現でもう少し時間がかかりそうだ。でも,因果的推論や研究そのものに関する理解は,確実に深まった気がする。

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せっかくなので,ここまで読んだ3章まで(全体の約半分)の内容で,インパクトのあった点を整理してみようと思う。大きく2つの点。第1は,この本がこれまでに読んできた方法論の観点を俯瞰し,体系的に整理してくれているということ。特に,因果関係の基本的な定義と比較研究の関係を論じる流れは,個人的にかなり有益であった。要するに,比較研究とは,因果的効果を推定する際に発生する根本的な問題を回避する方法としてあり,ほぼ同じと見なすことができる(単位同一性を満たした)対象における原因変数の違いから,因果効果を推測する方法,ということになるだろうか(自分だけに分かる書き方となっています。すいません)。

第2に,このような体系的な整理が,最終的に統計的な考え方を使って整理されており,そのこと自体が,定量的な研究と定性的な研究が,本質的には異なるものではないということを物語っていること。もちろん,この種の考え方に対して異論は存在するのだろうけど(全く異なる特徴をもっていて,しかも偉大な貢献をした事例研究も多く存在する),それでも,ここに提示された方法が1つの考え方として強い説得力を持っているのは間違いないと思う。

しかし,政治学と経営学,学問が異なるだけで,ずいぶん議論のレベルが違うな,という感がある。いずれにしても,この半年が無駄にならないように,私個人の研究に活かさなければ。