小澤征爾さんと、音楽について話をする

4月4日(水)

特に予定のなかった1日。2日連続でホテルの部屋の清掃をしてもらっていたかったので(昨日は、やってもらうと思ったのに、なぜかされていなかった)、"make-up the room"の札を出して、早めに部屋を出る。午前9時半。

足はお気に入りのBury Fieldに向かう。ここはPublic Field Commonといって、誰でも入っていい草原。 広くて、あまり人がいないので、時間をつぶすにはもってこい。今日は、天気もよかったので、本当にすばらしい景色を堪能できた。でも、なぜかカメラを持って行くのを忘れて・・・記録がない。まあ、写真をとる機会は、何回もあるだろう、と気を取り直して、もくもくと歩く。今日は本当に予定がなかったので、コスタでの昼食を挟んで、午前と午後、合計3時間ぐらいは歩いていたと思う。でも、ずっといたくなる風景。もう少しで、この近辺に住めると思うと、やや気持ちが昂ぶる。

午後3時、ホテルに戻り(無事、清掃が終わっている^^)、休憩・・・と思ったんだけど、明日が家の契約の日で、なおかつ、契約書が手元にないことに気づく。明日、突然見せられても、すぐには全部読めないのは間違いない。私らしくない、なかなか、よい気づきである。早速、不動産に出向き(ホテルから徒歩30秒)、契約書を前もって読ましてくれないか、と頼んでみる。すると、持ち出すのはダメだけど、ここで読むならいいいよ、とのこと。早速、不動産屋のソファに座って、契約書を読む。難しいけれども、なんとか理解はできる。特に無茶なことは書いていない様子。壁に絵をかけるのダメ、たばこダメ、11時以降の音楽鑑賞ダメなど、事細かに書いてある。なるほど、そうなっているのか。いくつか聞きたいことはあったけど、明日でいいかと思い、読み終えるなり、ホテルに戻った。1時間半ぐらいかかったけど、有意義だった。

その後、パブでビールを2杯。2杯目をうまく小銭で払ったら、店の兄ちゃんが「お、小銭使えるようになったね」という感じで、笑ってくれた。ちょっとうれしかった。

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小澤征爾, 村上春樹「小澤征爾さんと、音楽について話をする」

どちらも人物としても、物書きとしても大好きな人。2人が話しをしているシーンを思い浮かべるだけで、ちょっと楽しい。こんな対談集は、なかなかないだろう、という組み合わせ。これまでに対談集でおもしろい、と思った本はあまりないけれども、この本は特別。本が重いので、イギリスには持って行けないと思い、素早く読んだ。期待に違わない内容。これは、もう一回読むな。イギリスから帰ってからになるけど。

まず印象に残るのは、村上さんが音楽に関して博識で、まっすぐなこと。本当に、人生に音楽が染みこんでいることがよくわかる。また、村上さんの言葉を通して、マーラーの音楽が語られると、こうなるのか、といったところもおもしろい。小澤さんの言うように、村上さんの音楽好きはやはりちょっと度が過ぎているのだな、と確認。そらそうですよ。普通の人は、あんな風に指揮者や楽団による音楽の違いを楽しんだりはできない、と思う。

それと、村上さんのスイスでの音楽アカデミーの現地レポートを通じて、小澤さんの人となりがすごくよくわかることろもよい。小澤さんていうのは、自分の思いを実現させるためには、体がしんどかろうと、なんだろうと、とりあえずそのように動いてしまう人なのですね。そして、その行動の原点には、よい音楽をつくること、そして、よい音楽をつくる人をつくること、がある。ちょっとだけ、わかる気がする。あまり常識とか、人の目とか、効率性とか、自分の都合とか、そういったことは考えないのですね。だから、世界の小澤。納得です。

しかし、この本は貴重だ。何回でも読み返したい。それに、もっとクラシックを聴きたいな、と思わせる力もある。ちなみに、読了後、iTuneで、サイトウ・キネン・オーケストラの「巨人」を購入しました^^

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明日は、いよいよ車と家の契約がいっぺんに。うまくいきますように。

僕はいかにして指揮者になったのか

4月3日(火)

あいかわらずNewport Pagnellのホテル。もう6日もいるので、ある程度、生活にリズムができてきた。7時ごろ起きて、メールチェック。日本は午後3時だから、メールが結構入っている。その後、ひょろっとした、ややホモっぽい(ごめんなさい)お兄さんに給仕されて、朝食。コミュニケーションをとるのが好きみたいで、いろいろ言葉をかけてくれるけど、よくわからないときもある^^  現在、朝食は私のメインの食事。日本にいる時の倍ぐらいは食べて、カロリーをとっておく。ソーセージと卵、トマトとフルーツ。パンとコーヒー。そろそろ飽きててきているが、食べざるを得ない。

その後はだいたい、事務作業。今日は、自動車保険の会社に電話して、契約を詰めるのと、最大の関門、小学校入学の手続きの問い合わせ。いやはや、しどろもどろとは、このことだ、というくらいの、堂々たるしどろもどろ。小学校の担当者につながる電話番号を聞くんだけど、それが聞き取れない。最後は、相手があきらめて、勝手に電話を担当者のところにつないでくれました。なんや、できるんやったら、先にやってくれよ。その後、なんとか意思疎通ができたのか(たぶん・・・)、書類を送ってもらうことで、なんとか終了。最高にてんぱった15分間の後は、しばしの放心と自己嫌悪。やだねぇ、英語の電話って。まだいろいろしないといけないんだろうけど。

その後に外出。今日は郵便局でトラベラーズチェックを現金化したり、郊外のショッピングセンターに足を伸ばしたり、と精力的に動く。まあ、何かやっている方が、気持ちも楽になる感じはある。合間の昼食は、だいたいCosta(コスタ)というコーヒー店。マフィンではなく、サンドイッチにして、ささやかな野菜補給。イギリスでは、スタバよりコスタが圧倒的に優勢。コーヒーはおいしい。

夕方、ホテルに戻って、再度メールをチェックし、その後にホテルの下のパブで一杯。街には夕食を食べるところが、本当にない。みんな、やっぱりビール飲んで、終わりなんやなぁ。私もそれに従わざるを得ず、夕食はビールとポテトチップスとなる。こんな生活で、なんで英国人の成人はみんな太るんでしょうね。やっぱりビールか。

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さて、渡英前に何冊か本を読んだんだけど、覚えている範囲で、記録に残しておこう。もう少し暇な日々が続くから、1冊ずつ丁寧に行きますか。

佐渡裕「僕はいかにして指揮者になったのか」
佐渡裕氏が指揮者となっていく様子を、本人がまとめた自叙伝。本来、フルート(だったと思う。手元に本がなくて)奏者だったのですね、佐渡さん。本来的に実力があるからだろうけど、指揮者としては全く恵まれていない境遇から、あれよあれよと一流の指揮者への階段を駆け上がる姿は、奇跡、とすら感じさせる。そんなことあるんやなぁという感じ。日本人離れした大きな体と、明るいキャラクターで誰からも愛されるところも、奇跡の成功物語と関係あるかもしれない。
そういえば、読んだんだときの印象は、小澤征爾「ボクの音楽武者修行」と似ている。2人のような日本人の音楽家がいることに感謝しなくては。日本人は、やっぱり捨てたもんじゃないんだ、と自分に言い聞かせてみよう^^ 私は全然関係ないんだけど。

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さて、明日はとりあえずやることがあまりない1日になりそう。どうするかな・・・。

マイケル・K

4月2日(月)

NewPort Pagnellのホテル。時間は朝の5時。まだ時差ぼけが完全にとれないのか、昨日は10時ごろと、ほぼ普通の時間に寝たのに、4時過ぎに目が覚めた。まあ、慣れない環境にいるから、ちょっと神経質になっていはいるんだろうけど。

というわけで、イギリスは5日目。最初の2日間は、すごく天気がよくて、春のイギリスを満喫!って感じだったんだけど、その後は曇天&花冷え(とイギリスでは言わないと思うけど)。なにしろ暇な時間が多くて、散歩ばかりしているんだけど、寒い寒い。それに乾燥しているから、肌の調子もいまいちな感じ。健康には気をつけないとな。

ここまでの4日間で、なんとか家にメドはつけることができた・・・と思う。到着2日目、さっそく以前からコンタクトを取っていた不動産屋を訪れてみるも、「家具付きの家はないね。出てくれば連絡するから。」と一蹴される。その後も、3軒不動産屋を回ったけど、どこも同じ。ものの5分で終了。慌てて大学に相談したりしたけど、特になんということもなく。この日の夜は正直眠れなかったです。

ただ、こちらの知人、淳子さんが電話をかけてきてくれて、相談に乗ってくれたり、現在スコットランドにいる大学院の後輩・石さんも電話をくれたり。気を遣ってくれる人がいて、本当に、本当にありがたい。人生にコミュニケーションは必要なんだ。リアルに実感できる時。

その後、家具付きの家をあきらめて、ネットで住む範囲を限定して探すことに。物件情報は完全にネット掲載に移行していて、ネットがなければ、家探しは無理な感じ。そこで2つ物件を見つけて、昨日、見学に行ってみた。最初に見た物件は、環境がすばらしいが、狭くて・・・高い。2軒目はお話にならなかったので、1軒目にしようと思う、と不動産屋に伝える。仕方ないなぁ・・予算をオーバーするけど、子供のためだと思って、1年の贅沢。しかし、円高でよかった。不動産屋の兄ちゃん(スティーブ、だったかな?)がとてもよい人で、いろいろ丁寧に教えてくれる。家族でくる、といったら、brave manと言われたたりして。はは。

物件への入居は、7日まで待たないといけない。それまで、孤独なホテル暮らしが続く。無理せず、でも怠けずいこう。

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J.M.クッツェー「マイケル・K」
クッツェーの小説は「恥辱」に続き、2作目。世界デビューした作品とのこと。口唇裂(こうしんれつ)で、唇と鼻の一部が裂けている主人公のマイケル・Kが、戦争さなかの南アフリカ・ケープタウンを体の不自由な母と抜け出そうとするところから、物語が始まる。途中、母を亡くし、いくつかの収容所に押し込まれるが、そこを抜けだし、あらゆる束縛を拒否しつづけるマイケル・Kの人生が淡々とした記述で描かれる。途中、母が幼少時代を過ごした(であろう)土地では、人の目をさけるために、夜中の作業だけでカボチャを作り上げる。寝床は手作りの洞窟。パチンコで取った鳥や虫を少しだけ食べて、なんとか生をつなぎ止める生活。生への執着はないんだけど、あくまで自由に、生きたいように生きようとする姿が、徹底している。豊かな生活を求める「自由」とは異なる「自由」のあり方が、強い印象を与えている。

本とは関係ないけど、最初に思ったのは、「なぜこの本をこの時期読む本として選んでしまったのか」ということ。渡英直後の不安な時期に、マイケル・Kの孤独な、明らかに、路頭に迷っている生活(本人が求めているものだが)を読んでいると、不安な気持ちが明らかに増幅する。しかし、時間はあるし、読む本は、とりあえずこれしかないので、読み続ける。なんで自分で自分を不安定にしているんだ、と^^

もちろん、確実に心に迫る小説だし、さすがクッツェーと思わせる。物語に起伏があるわけではないに、読ませる力は衰えない。だだ、そこで受ける印象を言葉にするのはとても難しい(巻末の解説も正直、よくわからなかった)。あえて言うとすれば、「ほっておいてくれ。世界の中で俺一人の存在が、なんだというのだ」という自由のあり方とそれを阻止しようとするあらゆる暴力の表現、なのだろうか?

マイケルの存在がすごく気になる若い医師は、食べないマイケルに必死に流動食を勧めるが、マイケルは骨と皮だけになっても、それを拒否し続け、最後に病院を脱走する。結果、マイケルの生き方は、医師の手紙の形の独白を通して、読者に強く印象づけられる。おまえは特別な人間だ、と。

・・・書いていて気づいたけど、マイケルの求める「かまわないでくれ」という姿勢が一貫しているほど、マイケルは特別になり、他でもない誰かになる、というパラドックスがあるんですね。そうか。すごいな。

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こんなに時間があるなら、もっと日本語の本を持ってくるべきだった。あとは当分、iPadに入ってる本を読むしかない。夏目漱石の残りの作品でも読もうか。

暇に任せて長くなってしまいました。UKバージョンは特別編(生活の記録が多くなりそう)だけど、毎回長くなりそうです^^