社会科学のリサーチ・デザイン つづき


9月10日(月)

キング他「社会科学のリサーチ・デザイン」の後半を読了。ようやく全体像がつかめた。

本書の因果的効果の推論についてキーポイントになるのは,因果的効果の推論が、本書の中に示される「因果的効果の定義」に基づいて厳密に捉えられており,この定義に基づかない推論は一切みとめない,という点にあると思う。

「因果的効果とは,説明変数がある値をとるときに得られる観察の体系的な要素と説明変数が別の値をとるときに得られる観察の体系的な要素との差である」(p.97)

一般的な実験計画法と同じように,この定義に従えば,鍵となる説明変数に差があり,それ以外の条件が全く同一の2つの事例(観察)の比較をおこなうことで,説明変数の従属変数に対する因果的効果が推論できる(そして,その比較を厳密にするために,様々な点が考慮されなければならない。例えば,バイアスを避け,有効性を高め,内生性の問題を回避することである)。これらの議論の背後にあるのは統計学の論理であり、私たちがサーベイ調査をおこなう際に配慮する点を,いかにケース・スタディでも配慮するのか,が説かれている,といってもよいと思う。つまり,観察の数(n数)は多い方がよいし,多重共線性に注意し,鍵となる説明変数以外で従属変数に影響を与える変数を統制しなければならない。特に、バイアスを避けるための事例(観察)の選択の仕方は厳密で、参考になる点が多いと思う(経営学では、この点はやや議論が弱い気がする)。

しかし,少なくとも私の知るケース・スタディでは,1つの事例からの(つまり,比較なしの)因果的効果の推論を認める方法論が多いように思う。少なくとも,Yinの方法論は単独の事例から推論される因果メカニズム(因果効果の連鎖)を推論する方法を提示しているし,田村(2006)にも紹介されている「過程追跡」の手法は,それを正面から議論している。このような単独事例の因果推論を認めるかどうかが,私たちの知る一般的な経営学のケース・スタディの考え方と決定的に異なる点だと思う。

個人的には,この本で示されるスタイルも,ケース・スタディの1つのあり方だし,強い説得力があるなと思う一方で,かなり極端な議論だな, とも思う。この本の示す方法によると,ケース・スタディは,定量的な方法が何らかの理由でなじまない(例えば、n数が少ない,あるいは,サーベイ調査になじまない)調査対象に適用される方法,ということになる。さらに,個々の事例から因果的あるいは,記述的推論以外の成果は期待できない,ということにもなる。個人的には,それではケース・スタディがもっている手法としての特徴がとらえきれていないのではないか,と思うのだが・・・。例えば,構成概念の探索,あるいは,仮説の構築・・・。

ただもう少し勉強を続けないと,この辺の結論は出てこないかな。続けて読むとすれば、この本だけど、どうやって手に入れるか・・・。仕方ないので、英語で読むか。いずれにしても、よい勉強になった。

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