New Year's Eve


12月31日(月)

いつもの年なら,クリスマスが終わってから年末までの時間はあっという間に過ぎるものだけど,今年はなかなか年末が来なかった。ようやく大晦日。とはいえ,周囲には全く年末という雰囲気がない。クリスマスが終わって,中だるみのようなだらっとした時間が流れている。イギリスの一般家庭はどうなんだろう?1月2日から通常のカレンダーに戻るようだから,日本で言えば,正月休みの終わり頃の感覚なのかもしれない。そのせいなのかどうなのか,今日はちょっとかぜ気味。妻はテスコへ。子供たちは下でレゴをしている。

そういえば,今年は忘年会がないのだな。唯一,12月の中頃にクリスマスランチ,というのに誘われて,クランフィールドの先生方とパブでランチをした。会話がもつか不安だったけど,周りが話しまくる中で,うなずいているという感じで,たまに会話に入る。まあ,そんなもんか。20日には,39回目の誕生日を迎える。妻がロンドンまで刺身を買いだしに行ってくれて,手巻き寿司を堪能。感謝。22日からは小学校が休みになるも,次女が発熱したので,家族で引きこもってジグゾーパズル。1000ピースがわずか2日半で完成。早い。23日になって,次女がサンタさんに手紙を書くと言い出し,見てみるとリクエストしていたプレゼンとが違う。急遽妻が追加の買い物で,つじつまを合わせる。クリスマスは,イギリス式に25日に祝うことにしたので,24日はプチ・パーティで,ロースト・ビーフ。25日には,ローストチキンを焼いた。26日は,近所の日本語ぺらぺらの友人,サムさん宅でクリスマス・パーティ。おいしいイギリス料理を堪能した。旦那さんのグラントも本当にフレンドリーで,まさにイギリス紳士。楽しかった。



初めて異国で過ごした2012年。心と体を休め,家族と濃密な時間を過ごした。研究には新しい展開が見え,自分の視野がずいぶん変わったと感じる。一方で,ふがいないことも多く,自分の本質的な「無精さ」と「臆病さ」に落胆し,ふさぎ込んだり。でも自分にもできることはあるな,と期待することもあったり。まあ,そういう意味ではいつも通りの堂々巡りを,深く,ゆっくり繰り返したのかもしれない。

2013年は,成果の見える年にしないと。そのためにもあと3ヶ月,しっかりやろう。



Writing for Scholarly Publication

12月30日(日)

年末を迎え,ようやくWriting for Scholarly Publicationをおおよそ読んだ(まだちょっと残っているけど)。よい本であった。メモを掲載しておく。

Huff, A. S. (1999) Writing for Scholarly Publication, Sage Publication

<概論>
  • 学問的に書くことは,対話である。より活動的に関わるために,学問分野の中での社会的な場所を確保すること。「ライティング・コミュニティ」のメンバーが誰なのか,認識すること。
  • 執筆の初期からアドバイスをもらうことは,時間を節約し,書くことを対話的なモードにしてくれる。
  • 論文は,リライトされ,他人に詳しく検討され,またリライトされて,初めてうまく構成される。
  • ①タイトルとアブストラクト,②アウトライン,③イントロダクションと結論,④本文,の順に執筆する。
  • タイトル,アブストラクト,アウトライン,そしてイントロダクションであれば,論文の全体にアドバイスをもらうよりも簡単で,相手の負荷を少なくすることができる。
<心がけ>
  • よりよく考えるために書き,よく考えられると,うまく書ける。
  • 書く前に考え,さらに考えるために書く。
  • 他人からのアドバイスにタフになること。
  • アドバイスを与えるときには,自分の洞察をため込まないこと。
  • 学問的な対話に入れないかもしれない,という不安に打ち勝たなければならない。そのときには,革新や新しい洞察は,しばしば新しい声から生まれたこと,メジャージャーナルは,知られていない著者の論文も掲載してきたことを思い出すこと。

<共同研究でのポイント>
  • ①なるべく早く作業をして返すこと,②自分の手元にある時には,自分のペーパーだと思うこと,③ふるい原稿を復活させない(コピー・ペースとせずに,書き直す)こと。
<コンバーサントとイグザンプラー>
  • 3つから4つのコンバーサント(conversant;自分の研究の貢献の元になる論文や本)を見つけること。
  • あなたが研究者として最も話したい人(コンバーサントの著者)に話しかけるように書くこと。重要なのは,その人たちに,自分の研究が当該分野の理解に重要であることを納得してもらうことである。
  • イグザンプラー((exemplars;模範論文。自分が成し遂げようとする類似の仕事を効率的に成し遂げている論文)は,採用可能な方法の概略を示してくれる。
<執筆のコツ>
  • ①短いセンテンス,②現在形,③能動態,④シンプルな構成,⑤同じ言葉は多くとも2回まで
  • 自分の執筆がもっともはかどる時間,場所,状況を考えること。最もよい執筆環境を確保し,それを高める戦略について考えること。
  • 翌日の執筆のウォームアップのために,執筆の簡単な部分を残しておくこと。毎日書くこと。もし行き詰まっても,機械的な作業(図をつくる,表を直す,参考文献を整備する)ならできる。
  • なるべく早くドラフトを書き上げること(3週間でドラフトを書き上げること。それから1週間で校正すること)。
  • 新しい言葉をつくる,という誘惑を退けること。

<各論>
  • タイトルとアブストラクト;思い通りの読者を惹きつけられるかどうかは,タイトルとアブストラクトに掛かっている。少なくとも3つから4つのタイトルを考えてみること。アブストラクトを書く前に,キーワードを考えること。
  • アウトライン;執筆の前に論文の構造を示すアウトラインを作ること。
  • イントロダクション;イントロダクションを他人に読んでもらうこと。
  • 結論;論文の他のパートをかくまえに,結論を書いてみること。
  • プレゼンテーション;プレゼンテーションは,考えるための1つのやり方であり,考え直す機会であるから,よいプレゼンテーションの準備をするために,分析や執筆をやめること。プレゼンテーションの前には「リハーサル,リハーサル,リハーサル」
  • 本論の執筆;コンバーサントの論文を注意深く読むこと。イグザンプラーを,論文の中心部分を執筆する過程でも、ガイドとして役立てること。


追加 2013年1月3日(木)

Appendix A; Mary Jo Hatchの論文の書き方

アペンディックスには,本書とは異なる方法で論文を書くMary Jo Hatchさんの論文作成法が紹介されていたので,要旨をまとめる。上記の方法がかなりシステマティックで,他人の意見を重視するのに対して、以下の方法はかなり直感的で,自身の興味に素直な書き方であるように思う。


  • 私にとっては、アウトラインはあまり役に立たない。最初に数ページを書き,後で別の数ページを書く。それをもとに編集していく。読み直して,書き,編集する
  • アブストラクトは最後に書く。タイトルもしばしば変更される。
  • 私にとって,書くこととは,アイディアとのインタラクションである。私が探しているのは,わくわくするような,興味を引かれるような何かである。
  • 効率的にしなければ,ということを心配すること自体からは,何も得られない。ただし,1年に1本の出版は,1つの基準である。
  • 寝ている間に,アイディアが洗練されることがある。だから朝の時間は重要だ。それらをつかんで,書き写す。
  • 一番重要な読み手は,自分である。自分は常に読み手になっている。最近は,共著者から多くの対話を得ている。対話は,共著に不可欠である。
  • 学会,研究会は,対話の機会として非常に重要である。友人に会っただけの学会は,全く意味がない。年に5から6の学会に参加する。また,学会の締め切りが,焦点を定めさせ,生産的にしている。学会発表によって,フレーミングを定めることができる。
  • 書く時には,3から4つ,自分のインスピレーションを高めてくれる論文をてもとに置いている。
  • 言葉の単位で文章にこだわりをもっている。それが自分らしい文章を造り上げる。古典の中で好きな文章を徹底的に研究した。
  • プレゼンテーションの際には,多めのスライドをつくっておく。プレゼンの前日の夜に,何を使うか決める。ただし,本番ではそれを破棄し,直感に従ってプレゼンをおこなう。これがライブ感をつくると思う。
  • 書くことができなくなる,ということは自分には大きな問題ではない(あまり起こらない)。その際にできることは,他の文章を書くことに移る。共著者に投げてしまう,ということ。
  • 補完的な関係をもつ共著者がよい。信頼関係を築くことが重要。




昭和史(上)

12月19日(水)

最近,英語のドラマを見て,ヒアリングの練習をしている。今見ているのは,Ugly Betty の first season(リンクを張ろうと思ってサイトを見たら,ネタバレしていた・・・)。これは会話のリスニングの練習には相当効果があって,よしよしと思っているのだけれど,子供たちが寝てからやることになるので,どうも寝付きが悪くなる。寝る前に,パソコンの強い光を見るとどうもいかんのだなぁ。

ということで,今日は睡眠不足で,ペースが上がらず。充実した日の翌日は,ペースが落ちる,という感じが続いている。本を読みながら2回も寝てしまった。まあ,そんなもんかな。

そんな中なんとか読み続けた,ライティングの本,Writing for Scholarly Publicationはものすごくよい。こういう本が普通にある,というのが,英語圏の強みだろうなぁ。読み終わったら,ここにメモを上げることにしよう。

昭和史(上)をようやく読み終わる。知らずに買ったのだけど,東大経済学部の教授が書いたアカデミックな本で,読み応えがあった。特に太平洋戦争さなかの状況は,印象に残った。終戦を告げる昭和天皇の玉音放送。あの放送の前夜には、録音版を奪取しようとする軍部のクーデターがあったのだ。結局未遂に終わるのだけど,終戦間際になっても、思想の戦いがあり,その結果として歴史が作られたことがよくわかる。

日中戦争も,太平洋戦争も回避することができた戦争だし、逆に、天皇の思い切った発言がなければ,内地決戦が本当に行われていたかもしれない。政治が混乱し,首相が頻繁に交代する様子は今の状況と似ていて,恐ろしい。下巻も読みたいけど,帰国後にゆっくり読む時間がとれるかな。



イギリスの凍てついた朝。写真をとるぐらい余裕のある朝はいいよなぁ。残り少ないイギリス生活を想うと,ちょっと複雑な気分になってきた。あと1年ぐらい入れると,いいかも・・・とか^^ 

A Pale View of Hills

12月6日(木)

12月に入り冬至も近づいてきて,イギリスは本当に日が短い。日の出が8時ごろで,日の入りは4時前。明るい時間が8時間足らずというのは,やっぱり変な感じがする。朝は何となく目覚めが悪いし,夕方は散歩がしにくいし。仕方ないので,今日はお昼ご飯を食べて,すぐに散歩に出た。それでもすごく寒くて,昨日降った雪は全然溶けずに凍った状態。家から近いパブリック・フットパスにも行ってみたけど,水たまりは凍っていて,氷はかっちかち。乗っても平気だった。



今日は最高気温が3度,最低はマイナス5度。イギリスはそんなに寒くないと聞いていたのに,ちょっと予想外に寒い。この冬は特に寒くなるようで,ちょっと怖いな。

週末はユーロスターでパリに行ってきた。なぜか長女が昔から行きたい,行きたいと言っていたので,ようやく願いを叶えてあげられてよかった。パリは天気がよくて,凱旋門,エッフェル塔,ノートルダム神院と,どれもすばらしい眺めだった。夕食にはベルギー・レストランで,ムール貝を山ほど堪能。ベルギー・ビールもうまかった。やっぱりフランスは食事がおいしい。まあ,イギリスに比べれば,どこもおいしいような気はするんだけど。



Kazuo Ishiguro "A Pale View of Hills"を読了。秋に日本語訳で読んだので,再読になる。考えてみると,英語で最後まで小説を読んだのは,これが初めてかもしれない。先に日本語で読んでいれば,英語でも理解できるし,英語の方が理解しやすい部分もあったかもしれない。前回よりずいぶんおもしろく読むことができた。

この小説,やはり作品としての完成度は高くないのだと思う。ちょっと欲張り過ぎ,というか,いくつかのテーマが絡み合っていて,物語がすっと入ってこない感じがある。でも,その未完成なところ,(村上さん的に言えば)ごつごつした感じが、だんだん魅力的に思えてくる。

一番ぐっとくるのは,主人公Etsukoが人生を振り返って抱く「諦観」のようなものかなと思う。彼女が主体的に生きるために選んだ人生と,その残酷とも言える結末。彼女のやるせない気持ちがじわじわと伝わってくる。女性はどうやって「自分が主体の人生」を生きるのか。自分の生き方と家族との折り合いをどのようにつけるのか。このテーマのもつ深みが,友人Sachikoとの思い出や娘Nikiとの会話を通して,あぶり出されてくるような仕掛け。このテーマが男性である私の心に響くのだから、女性からすればもっと強い印象を受けるだろう。しかも,この話を男性が,しかもデビュー作で書いた,というは驚くべきことだと思う。

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気がつけば,今年も残り少なくなってきた。ということは,イギリス生活も残りが少なくなってきたということだ。ついでに言えば,38歳も残り少なくなってきたし,30代も残り少ない。なんだか区切りばかりを目指して生きているみたいだけど,人生の節目みたいなものは迫っているのかもしれない。