裏声で歌へ君が代


2月3日(日)

久しぶりに本を一冊読み終えた。丸谷才一「裏声で歌へ君が代」。秋にロンドンでJapan festivalという催しに行ったのだけれど,そこの目立たない一角に中古の日本語の本が売られていた。なんか読めそうな本はないか~と必死に探したところ,丸谷さんのこの本を発見。確か70p(約100円)ぐらい。今のような選択の制約状況がなければ,おそらく手に取らなかったであろう本。イギリスでいろいろな日本人の手を渡ってきたのだろう。すでにぼろぼろ。ここでお役目終了にしますね。

内容は,小説形式で「国家とは何か」を論じようとするもの。設定はおそらく1980年代の日本で,蒋経国の時代の台湾を民主化しようとする日本在住の台湾人と主人公の日本人画廊経営者との関係を軸に話が展開する。主人公が出会う様々な人々が,それぞれに国家観を語る構成。

私の感じだと,小説という形式をつかって国家を論じる試みは,半ば成功して,半ば失敗している(偉そうだけど)。確かにいろいろな国家観に触れることができて,なるほどと感じるところはある。一方で,主要な登場人物が皆,ものすごい博識で,それぞれに国家観を語る,というその状況自体がリアリティに欠けていて,「小説」としてのおもしろみを感じにくいのが残念。小説,という器で国家を論じるためには,登場人物に語らせるのではなくて,ストーリーとして語らないと難しいのではないかな,という気がした。もちろん,さすが丸谷さんという感じで、ストーリー展開も巧みだし,読ませるところも多いのだけど。

イギリス滞在が残り2ヶ月となって,やっぱり時間が足りなくなってきている。計画していたことをやりきるのは,ほぼ不可能な状況。ここからは,うまく優先順位をつけて,なるべく効率的に時間を使わなくては。この自由な時間の貴重さが,いよいよ身にしみてきた。

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