文化の日

11月3日(火) 文化の日

文化の日は「日経経済・経営図書文化賞」の発表日である。さっそく日経の朝刊をめくると受賞作はわずかに3作。経営系の著作はなし。「ビジネス・インサイト」は,最終候補作にとどまったようである。残念。近年は,論文ベースで仕事をする研究者が多くなり,それを一冊の本にまとめ上げる機会が少なくなっているのではないか・・という論評は的を得ていると思う。それに加え,大学の研究者に課せられる仕事が多すぎる。大学制度の見直しが行われるのは,いつになるのかなぁ。

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「1Q84」を読了。非常によくできた作品だというのが第一の印象。読み進むごとに,読者に伏線の存在に気がつかせていき,後半になっていくごとに魅力が増す。読む価値のある小説だと思う。

村上作品を読み続けてきたものとしては,これまでの著作のエッセンスがちりばめられている点が興味深い。「世界の終わり・・」や「海辺のカフカ」で用いられた2つの物語が同時並行に進むスタイル,「羊を巡る冒険」の羊を思わせる「リトル・ピープル」の扱い(リトル・ピープルは,他の短編にも出てきたような・・・),「アンダーグラウンド」で取り上げた新興宗教の世界,「ノルウェイの森」から現れた克明な性的描写・・・などなど。もっとあるのあもしれないけど,村上作品の総決算,的な評価が現れやすいのかな,という気がする。

読んでいて気になったのは,物語のテーマに関するやや「ずれた」感じ。例えば,新興宗教の世界観へのとまどい,とか,人生のキーポイントとなる幼少期の体験,とかが,なんとなく私個人の経験や感覚とはずれるかなぁ,と。宗教の問題は未だに大きな社会的な問題,というか現象だけど,それが自分に差し迫った問題になっておらず,なんとなくずれた感じを受ける。また,幼少期の体験についても,私が幸運にして幸福な幼少時代を送ったからかもしれないが,それが人生に決定的に影響を与える,という感覚がどうもずれた感じ生んでいるように思う(逆に大人になってから性格に変化が生じることの方が個人的には興味深い)。よくできた小説だと思うけど,その辺がいまいちのめり込めない原因になっていのではないか,というのがごくごく個人的な感想である。

しかし,物語の中で「空気さなぎ」がベストセラーになり,そのことが物語を進めていく1つのポイントになり,その物語の媒体である「1Q84」がベストセラーになる,という現象には妙な感覚がある。村上さんの著作は,「ノルウェイの森」以降,ここまで売れることはなかったから,この爆発的な売れ方には村上さん本人もとまどっているのではないか。ほんと妙だ。「ノルウェイの森」とは違って,これまで村上さんの本を読んでいなかった人には,なんのことかさっぱりわからないはずだしねぇ。

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この本に関しては,いろいろ解説本が出ているようである。どんなことが書いてあるのか,興味はあるけど・・・いずれ本屋か図書館でパラパラと見てみよう。素っ頓狂なことが書いてあるとおもしろいんだけど(笑)



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