夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです

6月24日(金)

ぼちぼちと読み進めてきた,村上春樹インタビュー集「夢をみるために毎朝僕は目覚めるのです」を先日読了した。ずいぶん長い時間を掛けて読んできたので,ややぼやっとしているところもあるのだけれど,やはりポイントは村上氏の物語の作り方にあると思う。

表題にあるように,村上氏の物語の作り方とは,夢を見るように自分自身の奥深いところに「降りていく」ことによって,物語を「紡ぎ出す」という感じかと思う。インタビューの中によく出てくるのは,自分でも予想だにしない登場人物が生まれたり,ストーリーが展開されたり,といったプロセスがよくあるということ。だからこそ,作者がどのような意図をもってその人物やストーリーを展開したか,を作者に問うことは無意味であり,テキストは作者を含めたすべての人に平等に開かれている,というのである。

私が論文を書くときは,当たり前だけど,自分の論理的な能力をフル回転させ,メッセージが明確に伝わるように慎重に言葉を選び,構成を練るし,それがすべてである。小説だって,ある程度そうやってできるもんだろう,と思っていたのだ。漠然と。もちろん,登場人物の性格や設定を決めれば,そこからストーリーが半ば自然に展開されることがあったとしても,登場人物の設定自体が何かの意図を明示的にもたずに,半ば無意識のような状態の中から立ち上がる,というのは,想像を超えることだ。さらに,そのようにして作られた氏の作品が,私だけでなく,世界中の人たちを惹きつけるのだから,二重に驚かされる。

ただ,論文を書くときにも,直感的に,あるいは,ずっと考え続けているうちに,自然と中心的な概念が整理される,ということもあるから,それを突き詰めていくと,氏のような文章の作り方になるのかな・・・とも思える。未知の自分をテキストの作成にどのように活かすのか,という問題なのだろうか。

手法はさておき,「ノルウェイの森」や「国境の南,太陽の西」のようなリアリズムの文体を用いた新作を期待している人が多いのではないか,と思うのだけど。将来的にもう1作ぐらい,あるかな・・・?

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